哀しき野良犬

それは違うだろう。
幸恵は晴男がいなくなったら幸せにはなれない。
幸恵のためを思うなら、晴男は死んではいけない。

「望み通りにしてやるよ」

成瀬が若造に何やら合図をすると、若造たちが一斉に晴男を痛め付け始めた。

「やめろよ!」

止めに入った俺にも容赦のない蹴りや角材が飛んで来た。
俺たちは何もしていないのに、こうして理不尽に殺されて行くのだろうか。

殺人犯の家族というだけで、俺たちが死んでも世間はせせら笑うだけなのだろう。
納得が行かない。

いや、しかし、兄に殺された女性たちはもっと納得が行かなかったに違いない。

ただそこを通っただけで殺されてしまった被害者たち。
遺族の感情を考えると、やはり俺たちは生きていてはいけないのかも知れない。

成瀬たちの会話が段々と遠くなって来た。
俺の意識が薄れて行っているのだろう。

俺が死んだことは大々的に報じて欲しい。
一条晃一の弟がヤクザになぶり殺されたと、世間に知らせて欲しい。
そうすれば遺族の気持ちが少しだけ晴れるかも知れない。