哀しき野良犬

「お? 金、あるじゃねえか」

成瀬は俺の胸ポケットから封筒を取り出した。
今朝、社長から貰った退職金だ。

「挨拶料として貰っとくわ」

俺はまだ中身を見ていなかったが、成瀬の指の動きから、10万ほど入っていたようだ。

「で? 親父を殺すだと?」

成瀬が晴男の髪の毛を掴み、そのまま力任せに壁に背中を押し付けた。
事務所の玄関には防犯カメラが設置されている。
だから、恐らく、事務所の前で俺と晴男が喋っていた会話が筒抜けだったのだろう。

「上等じゃねえか」

成瀬は晴男の顔を殴り付けた。
たった1発なのに、晴男のこめかみから血が溢れ出した。

成瀬という男は昔から武闘派の典型的なタイプだった。

「俺は殺されても構いません。だから幸恵にはもう手を出さないでください。幸恵を自由
にしてください。お願いします」

晴男は床に頭を付けた。