哀しき野良犬

俺は秦野さんと同じくらい社長には世話になっている。
俺の存在を認めてくれた大人は、秦野さんと社長だけと言っても過言ではない。
だから尚更、社長には迷惑を掛けたくない。

「一条くんの身請けの方がいらっしゃいました」

婦人警官の声がして、長坂先輩が入って来た。

「え?」

秦野さんは俺の身請け人として社長に連絡をしていた。
社長が出張だから代わりに長坂先輩が来たということだ。

秦野さんと長坂先輩も古い付き合いだ。
長坂先輩が暴走族だった頃、さんざん世話になったらしい。
だから今でも秦野さんは先輩のことをガキ扱いする。
バカにしているのではなく、親のような思いなのだろう。
世話をした非行少年が立派な社会人になっている姿を見ることが、秦野さんにとって何よりの楽しみだと言う。