哀しき野良犬

「会社、辞めるんだって?」

秦野さんが心配そうに俺の顔を見た。
あの工場は秦野さんに紹介されたものだった。

秦野さんと社長は10年来の知人らしい。
真面目に働くから、と約束して入社したわけだから、やはりここでも秦野さんを裏切ったことになるのだろう。

「社長がショックを受けてたぞ。社長にまだ何も言っていないんだって?」

そういうことになる。
今朝、会社に対する嫌がらせを長坂先輩から聞き、俺は事務所に寄らず帰って来た。
あとからあらためて社長には挨拶に行くつもりだった。

「辞める必要ないだろ?」

「でも、社長に迷惑が掛かるし」

「その社長が辞めるなと言ってんだぞ?」

「え?」

「ちゃんと話し合えよ。一方的に辞めちまうなんて、そんなの、オマエ、卑怯だぞ。負け
犬と同じだぞ」