哀しき野良犬

「だから! 決め付けないで。私たちの人生を、他人が勝手に決めないでよ」

「一条晃一って知ってる?」

「え?」

「連続OL強姦殺人の犯人」

「ええ、勿論」

「あれ、俺の兄貴なんだ」

「え?」

何も言わなくても、この時点でお互いの気持ちは痛いほど理解できる。

「だから、家族はいないほうがいいって言ったんだね」

幸恵が悲しそうな顔で俺に言った。

「優しい兄貴がいるだけ、私のほうが幸せなんだね」

「いや、でも俺は借金なんて抱えていないから、それを思うと俺のほうがマシかも知れな
い」

不幸自慢しているみたいでイヤだ、と幸恵は苦笑した。