哀しき野良犬

またね、と言って幸恵は俺を送り出した。
やはりまた俺と会うつもりなのだろうか。
俺は礼を言って歩き出した。

喧嘩慣れしていた身体だが、これほど一方的にやられるとさすがに辛かった。
だが今日も仕事が入っている。
休むわけには行かない。
急いで自宅に戻り、着替えて工場に向かった。

遅刻すれすれの時間に飛び込む形となってしまったが、どうにか間に合った。
工場の入り口に長坂先輩が立っていた。

「来ないかと思ったじゃねえかよ」

長坂先輩が心配そうに声を掛けてくれた。

「どうした、その怪我? 喧嘩か?」

派手にやられました、という顔なので誤魔化すことは不可能だ。
だが兄の被害者の身内に殴られましたとも答えたくなかったので、曖昧に笑っておいた。