哀しき野良犬

「おうちの人、心配してないかな?」

本当に心配そうな顔で晴男が俺に尋ねる。

「俺、家族、いねえし」

「そうなんだ?」

「家族なんていないほうがいい」

思わずボヤいてしまった。
6畳1間に兄妹が一緒に暮らしている、
この兄妹もたぶん両親がいないのだろう。
だから今の俺の発言にはムカついたかも知れない。

それっきり彼らは何も言わなかった。
やはり気を悪くしたようだ。

居心地が悪くなり、俺は帰り支度を始めた。

「無理すんなよ。肋骨が折れてるみたいだし、明るくなってから帰れよ」

「いや、でも」

「途中で倒れたらどうすんだ?」

俺たちの介抱が水の泡じゃん? 
と笑いながら言った。
怒っていないのだろうか。