哀しき野良犬

俺のような身なりの人間に警戒心はないのだろうか。
しかも俺は喧嘩してボロボロだった。
関わって厄介だとは思わないのだろうか。

「喋るの、まだ辛いか」

幸恵は勝手に納得して勝手に頷いた。

ドアが静かに開き、男が入って来た。

「おかえり、お兄ちゃん」

「気が付いたのか? 良かった」

人の良さそうな男だった。

堀口晴男、と男は名乗った。
彼らの母親は十六年前に死亡し、父親は、と言ったところで幸恵が話を遮った。
そりゃそうだ。
見ず知らずの俺なんかに自分の身の上話など聞かせたくはないだろう。

「どこに連絡すればいいのか分からなくてさ」

晴男が俺に言った。
俺はコンビニに行くつもりで自宅を出たままなので、小銭以外は持ち合わせていなかった。
当然、俺の身分を証明するものは何もない。