哀しき野良犬

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気が付くと見知らぬ部屋だった。
6畳1間に小さなキッチンが付いただけの質素な部屋だ。

女がそのキッチンの前に立っていた。
俺の額には濡れたタオルが置かれていた。
女は俺の額のタオルを取り替えるところなのかも知れない。

「あ、気が付いた?」

女が絞ったタオルを手にして俺の横に来た。

年齢がよく分からないが、たぶん、20代だろう。

「このまま目を開けなかったらどうしようかと思ったよ」

「あの・・・・・・・・・」

「今は誰もいないよ。兄貴が買い物に行ってる」

「兄貴?」

「私は堀口幸恵。君は?」