哀しき野良犬

「いいか、一条！　オマエには手を出す権利はない！」

背後から２人掛かりで押さえ込まれた。

冗談じゃない。
なぜ俺が黙って殴られなくてはならないのか。

「俊二。姉貴の仇だと思って、ぶっ殺すつもりで殴ってやれよ」

男が別の男に言った。
姉貴の仇、と言った。

もしかしたら俺の兄はコイツの姉さんを殺したのだろうか。
それを聞いた途端、なぜか俺は抵抗してはいけない気がした。

容赦のない蹴りやパンチが飛んで来た。
俊二と呼ばれた若造だけでなく、１０人が代わる代わる俺を痛め付けた。
このまま俺は死んでしまったほうが良いのだろうか、なんて考えが頭をよぎった。
なぜ兄はこれほど人から恨まれる犯罪者になってしまったのだろう。
兄の異変に気付かなかった家族は、やはり同罪なのだろうか。

激しい痛みと共に、俺の意識は次第に薄れて行った。


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