哀しき野良犬

だが、ふと、秦野警部の顔が思い浮かんだ。

暴力では物事は解決できない。
いくら喧嘩が強くても、それを 「強い人間」 とは言わない。
そんなふうに説教されたことがあった。
そして、暴走族をやめたとき、二度と喧嘩はしないと秦野さんと約束をした。

隙を衝かれて背後から後頭部を殴られた。

一瞬にして意識が飛びそうになった。
やはりこのままのたれ死ぬのはイヤだ。
俺は暴力でしか生きていることを証明できない人間なのかも知れない。
もうどうなってもいい。
そう思った瞬間、俺は道端に落ちていた材木の破片を手にして若造に殴り掛かった。

ヤケになるな。
秦野さんの声がどこからか聞こえた気がした。

そのせいで殴る力が鈍った。
若造には大したダメージを与えられなかった。
いつの間にか、喧嘩もできない男になっていたのかと思うと、自分が情けなくなる。