哀しき野良犬

足が勝手に繁華街に向かっていた。
2ヶ月前までは毎晩のように遊び歩いていた盛り場だ。

今でも当時の仲間はまだ繁華街のどこかにいるのだろう。

俺はかなり無理を言って仲間を脱けさせてもらった。
ああいう世界には「掟」 というものがあり、暴力的な制裁を受けないとなかなか途中では足を洗うことができない。

彼女のため、生まれて来る子供のために我慢したあの出来事が、随分遠い日のような気がする。

彼女も子供も俺から離れて行き、残ったものは俺の心と身体の傷だけだ。
今でも俺の脇腹には、あのとき付けられた火傷の跡がくっきりと残っている。
それを見るたびに、自分はつくづくバカな世界に身を置いていたのだと痛感する。

だから暴走族を脱けたことに後悔も未練もない。
ただ、こんなとき、仲間がいたら何と声を掛けてくれるのかな、なんて思ったりもする。