哀しき野良犬

「ヤケを起こすんじゃないぞ、修平」

聞き慣れた声がして振り返ると、秦野警部が立っていた。
俺がさんざん世話になった少年係の刑事だ。
嫌味な刑事が多かったが、秦野さんだけは優しかった。
って言うか、俺のことを本気でぶん殴ってくれたり、一緒に泣いたり怒ったりもした。

彼女が妊娠したことを真っ先に相談したのも秦野さんだった。

秦野さんは最初、彼女を妊娠させたことに激怒したが、俺も彼女も本気であることを知ると心から喜んでもくれた。

「大丈夫です、俺は」

こうして此処に俺のことを心配して訪ねて来てくれた秦野さんの気持ちが嬉しい。
だから裏切るわけには行かない。

俺は大丈夫。

それは自分に言い聞かせるための言葉でもあった。