哀しき野良犬

母にとって人生とは何だったのだろうと思う。
不幸な一生だったに違いない。

ギャンブル狂いの父。
暴走族だった俺。
ついに殺人犯になってしまった兄。

そんな家族に囲まれて、幸せであったはずがない。

そして、これから先のことを考えると、母は死んで良かったのかも知れない。
母の死に顔を見ていたら、なぜかそんな気がした。

「ゆっくり休めよな」

そう声を掛けて母の手に触れた。
想像していたよりもずっと冷たかった。
もっと暖かいうちにたくさん触れてやれば良かった。
まだ40代なのに荒れてガサガサの手だ。
苦労していたことがよく分かる手だ。