「おかえり、律」
警察署を出ると彼が笑顔で立っていた。
一時間以上事情聴取を受けていたが、ずっと彼は待っていたらしい。
「お疲れ様、律」
その横には私の母も。
「同じ名前だからどっちを呼んでるか分からないわね」
「そうですね」
母は相槌を打った彼と顔を合わせて楽しそうに笑う。
どうやら私の知らないところで仲良くなっていたようだ。
「律、私は離婚とかやることもあるから家に一度帰るから。毎日状況を連絡するし、何かあったら必ず連絡して」
「え」
笑顔で淡々と言うと母はそのまま彼に「娘をお願いします」と頭を下げ、私が引き留めようと左手を前に上げたままなのに無視して風のように去って行った。
ちょっと待って。
「律、行こうか」
言葉と共に手には温もり。
横にはいつも通りの普通すぎる笑顔の彼。
私はこの状況についていけてないのに。
「半年待てって言ったのは、義父に会いたくなかったからだろ?半年待たなくてもサイン貰った」
そして彼はニカッと笑いながら母のサインが入った婚姻届を見せてきた。
その通りだ。
未成年だと保護者のサインが必要となる。
だから保護者の了承が要らなくなる私の二十歳の誕生日まで待てと言っていた。



