グイードがうっかり『父上』と口にしてしまうくらいは本当に困惑しているのだろう。

メリアルーラさんが亡くなってから、何にも関心を示さなくなっていたという王様。そんな人が……何の用があって私とグイードを呼ぶのだろうか。

疑問は尽きなかったけれど、とりあえず急いで身支度を整えることにした。

◇◇

ドレスの長い裾が足元にまとわりついて酷く歩き辛い。もう行儀は知ったことじゃない、と抱え上げる。

グイードは王の間が近づくにつれて口数が少なくなっていくようだった。

「一体、何のお話でしょうね?」

「……さあ、な……」

それだけ言ったっきり黙り込む。私以上に緊張しているのか、それとも───愛する母を、臣下の進言に流されて見す見す側室などにしてしまった父を恨んでいるのか。

それを尋ねることはできなくて、いつの間にか目的地に辿り着いていた。

扉の前に立った衛兵に顔を確認され、中に入る許可が与えられた。

入口から奥へと、長く絨毯が敷かれている。一歩踏み込んでみるとぐっと足が沈んだ。歩き進めることにも手間取っていると、すっと腕が差し出される。

「……グイード」

この呼び出しに色々な思いを抱いているのはきっと彼の方なのに。私は感謝の思いを抱きながらその腕を取った。

玉座は入口からも見える。それなのに途方もなく長く感じる道のり。ゆっくりと私たちは近づき……そして遂に国王と対峙した。グイードに倣って礼をすると、僅かに頷かれた。

白髪混じりの金髪。口元を隠すように伸ばされた髭。碧の瞳は伏せがちなせいで瞼に半ばほど隠されている。激しく眉間に寄った皺のせいで、推測される年齢よりもずっと老いて見えてしまう。

遠慮なくひとことで言えば、もう抜け殻に見えても仕方がないと思ってしまった。

口髭が蠢いた。口を開いたらしい。

「よく来てくれた」

声は思いの外張りがある。ピンと背筋が伸びた。確かに彼は国王なのだと、為政者の面影を感じさせる。