瞬きもできずにじっと見つめる私の前で、徐にグイード殿下が口を開いた。

「……信じられないくらいに阿呆だな、お前は。お前に愛想を尽かすだって?そんなの、俺が今ここで死んだってありえないな」

グイード殿下がの指先が私の指先に触れる。私の手の形を確かめるようになぞって、その指先に唇を寄せる。

「いや……幸せすぎて、死にそうなくらいなんだが、どうすればいい?」

そう言って私の手を自分の胸にあてがう。伝わってくるのは、心臓が焼き切れてしまうのではないかと心配になるくらいに激しい拍動。視線を上げた私に、グイード殿下は顔を赤らめて恥ずかしそうに視線を逸らした。

「お前の音も……聞かせてくれ」

私はぎゅうとその大きな体に手を回した。羞恥をかなぐり捨てて、お互いの身体のラインがわかるくらいに余すところなく密着する。隙間など作ってしまうことがもったいないと言わんばかりに。

伝わる振動、触れる身体全てが、互いの言葉が嘘ではないという証拠。

「俺を何よりも一番に選んでくれたと、決心がついたと……そう思っていいのか?」

ああもう、やっぱり何もかもお見通し。

「うん……」

下睫毛に引っかかっていた涙が目を瞬いた拍子にぽろりと落ちた。

「……だから、ね」

私は体を離すと、紙の束を手に取り────思いっきり破った。

びり、びり、と粉々になるまでちぎり続ける。驚いた顔をしているグイード殿下の前にぱっと紙吹雪が舞う。

「せっかく調べてくれたのにこんなことをしてごめんなさい。でも、これが私の意思表示」

「待て、一緒にいてほしいとは言ったが、俺は家族まで捨てて欲しいわけじゃないぞ!」

「違います!……違うんです」

激しく首を振る。忙しなく瞬きをしながら何度も深呼吸をして、心を落ち着かせる。

「ごめんなさい。今まで、私はずっと嘘をついていました」

「嘘?」

「最初は別に話す必要なんてないし信じてくれないだろからって。途中からは、言うタイミングがなくなって。最近は言う覚悟ができなくて……ずっと嘘をついたままにしていたんです」

グイード殿下は突然の告白に驚いたように目をぱちくりとさせながらも、気負い無く唇を緩めて微笑んだ。

「まあ、お前は理由もなく嘘なんてつかないだろう?別にいい。今から真実を話してくれると言うなら」

「……とても信じられないと思いますよ」

「お前の話を信じないわけがないだろう」

無根拠なくせに絶対的な自信。それに励まされて、私は口を開いた。