「なに、これ……」

私が見てはいけなかったものなのかもしれない。それでも釘付けになった視線を引き剥がすことができなかった。

載っていた顔は全て私と同じぐらいの歳に見える少女だった。

1ページ当たりにおよそ20人。捲ってみると裏にも同じだけの人数が。同じものが数十枚分もあれば、これには一体どれほどの人数が載っているのだろう。

目がちかちかしそうなほど詰められた文字を顔を近づけて必死に読む。名前、特徴、性格、生年月日、家族構成、とプロフィールが続き、その次に……『行方不明』と。

その後からは行方不明になった日時や場所、経緯などが十数行に渡って事細かに記されている。明らかにそれ以前の1、2行で記されたプロフィールとは割かれている行数が違う。

私は次々に紙を捲った。少女の見た目にも個人情報にも特に共通点はない。ただ、どの少女についても『行方不明』の文字があるのは同じだった。

「行方不明者のリスト……?」

さらに何人かには付箋やペンで印がつけられている。『マイナ』『マルカ』『メイカ』『瞳の色はヘーゼル』『髪は緑がかったグレー』『行方不明時に頭を強打の恐れ、記憶喪失の可能性有』……

「まさか」

思わず声が零れた。唇が震えた。

これは────私の身元を突き止めようとグイード殿下が調べてくれたのではないだろうか。

私が記憶喪失だと話したから。森で助けられた以前の記憶が無いと嘘をついたから。

だめ。

……こぽり、と突然栓が抜けたみたいだった。

鼻がツンと痛くなって、次の瞬間には堪えきれなかった涙が溢れる。止めどなく頬を滑る度に熱い雫が私の心を確かめるようにじわじわと焦がしていく。

みっともなく嗚咽を漏らしながら、私はここにいない相手に声を絞り出した。

「どうして、あなたはそんなに優しいんですかぁ……っ」

本当にあの人は何も言ってくれない。

これも、お母さんの話を私にしなかったことだって、孤児院の件だって。いや、思い返せば小さなことはもっとあるけれど。

本当は真っ先に他人(ひと)のことを考えてしまったり、手を差し伸べたくなったりしてしまう優しいひと。それを優しさだと思っていないところも、びっくりするくらいに奢っていなくて純粋なひと。関わる時間が長くなればなるだけ、そう思うことが増えていく。

そんな彼が最初に会った時のように他人に興味が無い顔をするようになるなんて、今までどれだけの辛い思いをしてきたんだろう。そう想像してまた泣けてきて仕方がなかった。