「彼女は王城の動向も知っているみたいで、マイカやグイード殿下が王都に出てきそうな日も教えてもらっていたんだ。まさか、本当に出会えるとは思っていなかったけどね……
半分以上は疑っていたんだよ。もしかしたら、くらいの気持ちだった」

薄い藍の瞳がこちらを見据える。

「でも会えたから、会えてしまったから、決心がついた。
……僕はね、正直なことを言うと、その子が本当は友だちじゃなくてもどうだっていいんだ。こうして動くきっかけをくれてありがたいって思ってる」

バレンさんは気を改めるように深呼吸をするとこちらに茶色い紙袋を差し出した。パンやドーナツが入っていそうな感じのものだ。

「これ。その子に貰ったんだけど、受け取って」

「なんですか……わ、重……っ?」

中身もきっとそういう系統の物だろうと予想していたので、私は思った以上のずしりとした重量に取り落としそうになった。

驚いて中身を確認する。布に包まれた小さな小瓶が一つ入っていた。布を剥がしてみると中は無色透明の液体だ。

「僕には詳しいことはわからないけど、彼女が言うには強力な眠り薬だって。これをほんの数滴摂取するだけでしばらくの間は起き上がれないらしい」

バレンさんが声を潜めて言う。あまり良くないものだという自覚はあるようだ。

「ええ!?そ、そんな怪しいものを私に渡してどうするつもりなんですか!受け取れませんよ!」

つき返そうとした私の手をバレンさんが押さえる。

「これをグイード殿下に飲ませて、そして殿下が眠っている間に王城を抜け出すんだ。殿下がきみのことを監視しているんだろう?」

「これを……飲ませる?何言ってるんですか……」

「だって殿下の目がなくなれば出られるよね?」

確かに、あとはシャルキさんに見つからなければ脱出するのは意外と簡単なことかもしれない。他の人達は私のことを認識していないか、あるいは出て行ってほしいと思っているくらいだから。