「どうして、こんな突然……」

わざわざここまで来てくれた人に対して我ながら随分な言い草だと思ったけれど、バレンさんは怒ることもなくカップを掴んで口をつけると喉を湿した。

「……マイカが城で辛い思いをしていると聞いたからだよ。
少し前にマイカの友人だという人が村までわざわざ訪ねてきて、『マイカが突然城に連れてこられて困っている。帰りたいと言っている。見ていられないからここまで来た』と言ってきたんだ」

その声は僅かに動揺を含んでいるように思えた。聞き及んでいたことと事実の齟齬に困惑しているからなのだろう。

私はバレンさんが話した内容に目を瞬かせた。

「ちょ、ちょっと待ってください。それって誰ですか?私、王城で友だちなんていないん……ですけど……」

言いながら虚しくなって声が尻すぼみになる。それを聞いて、えっ?とバレンさんも驚いた声を上げた。

「ご、ごめん……身分がしっかりしてたから信用してしまったよ。貴族の女の子だったから、本当に城でできた友達なのかと思ったんだけど」

「貴族?」

「うん。金髪に綺麗な碧の瞳だったから、貴族は貴族でも伯爵や公爵なんかの位の高い貴族だと思う」

そんな知り合いいるわけが……

と、私はひとりだけ当てはまる人物がいることを思い出した。廊下でぶつかったあのビスクドールのような少女だ。

でもまさかあれだけの接点で友人など名乗らないだろう。それに私は彼女に自分の話をした覚えがない。

今思えば名乗ってすらいないので、互いが誰なのかさえもわかっていないはずなのである。

「その人の名前は?バレンさんは名前も名乗らないような人を信じる人じゃないでしょう?私と出会った時も名前を尋ねてきましたよね」

「確か……アマルダ、と言ったかな」

「アマルダ……」

もちろん初めて聞く名前だ。しかしどういう思惑かはわからないものの何かこの件に関わっていることは確かなので、とりあえず脳に刻んでおくことにする。