バレンさんと近くにあったカフェに入る。私はミックスジュースを、バレンさんはストレートティーを頼んだ。

「ごめんね、こんな風に話すことになっちゃって。2人で出かけている途中だったんだよね?」

「あ、はい。今日は殿下がお仕事がお休みだったらしくて。それで」

「マイカはグイード殿下と随分仲が良いんだね」

「あ、そう……です、かね……」

その声に咎めるような色合いを感じて私は言葉に詰まった。バレンさんからすれば当然だ。3ヶ月という短い間とはいえ共に過ごした仲間を攫われた立場なのだから、グイード殿下に良い気持ちを抱くはずがない。

そして私も同じ理由で良い気持ちを抱くはずがないのだ。いや、彼の視点からすれば、抱いてはいけない、くらいの思いだろう。

だから、グイード殿下と一緒にいる、しかも抱き合っているような姿を見て……一体どう思ったのか。裏切られた、と思っていてもおかしくない。

私だって、グイード殿下にこんな気持ちを抱くなんて、あの時はそんなこと微塵も思っていなかったのだ。

2人の間に横たわる沈黙が怖くて、私は考え込まないように努めながら当たり障りのない話題を選ぶ。

「今日はどうしたんですか?観光……じゃ、ないですよね」

「そうだね」

「ていうか……こんな賑やかなところで出会うなんて、すごい偶然じゃないですか?そうですよね、本当すごい、偶然……」

自分でいいながら、まさか、と思う。

もし偶然じゃなかったら。どういう方法かはわからないけれど、私たちに会うためにこの王都に来ていたとしたら。

質問を重ねようとした私を遮るようにバレンさんは口を開いた。

「ねえ、マイカ。帰ってくる気はない?」

「……え?」

「僕たちはあれからずっと待ってるよ。ユリーナもマイカがいなくなってからすごく寂しがってる。マイカの場所はまだ残ったままだよ。すぐに帰ってこられる」

ユリーナの天使のような明るい笑顔が脳裏をよぎる。余所者の私によくしてくれた村の人々の姿が思い出されて、私は拒絶も否定も口にできなかった。