どうして、そんな風に私に触れるの。やめてよ。私のことが本当に好きなんだって、嫌でも伝わってくるから。

「好きだ、マイカ」

何回も言わないでよ、わかったから。……わかったから。

簡単に揺らいでしまいそうになる。私もそれに応えてしまいたくなる。それをぐっとこらえて、いつものように私は誤魔化すためにひねくれ娘を装う。

「……可愛くなくても?」

「何言ってるんだ。お前が可愛くないはずがないだろう」

グイード殿下がむすっとしたのがわかった。そして強く胸に押し付けられる。

「俺はいつも、お前といるだけでこんなに心臓がうるさいんだぞ」

「いつも……?」

どくん、と相変わらず大きく震える音を聞いて、私は安心してふにゃりと全身から気が抜けるのを感じた。

「そうだったんだ……そんな風に見えなかったから、私ばっかりドキドキさせられてるんだと思ってた」

「……だから、そういうことを言うな」

指で顎をすくわれる。アガットの瞳がこちらを見つめている。熱が滲んだ瞳が私だけを映している。

私は近づいてくる顔に目を伏せた。それに気づいてグイード殿下が僅かに微笑む気配。

「可愛いことを言うこの口を、塞いでしまいたくなるな────」

あとほんの数センチで触れる。私が完全に目を閉じようとした時、視界に見覚えのある人が映った。

あの時より少し長くなった栗色の髪に、明るい藍の瞳。人の良さそうな垂れ目も変わりなく。

大きく目を見開いた私に気づいて、グイード殿下が体を離した。そして半身振り返り、私と同じような表情を浮かべる。

「……バレンさん」

久しぶりに見た顔に思わず名前が口をつく。異世界に来たばかりの私を妹と共に助けてくれた、あの青年がこちらを見つめていた。