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じいっと露店に見入る私をグイード殿下が見ている。

「……あの」

「なんだ」

「視線が痛いっていうか……どこか違う所見ててくれませんか」

「なぜ妻を見るのに理由が要るんだ?」

まただ。ああもう、いつもいつも妻だなんだって事を引き合いに出してくるのはずるい。絶対私が言い返せないのをわかって言っているから。

その会話を聞いていた露店の女店主が朗らかに笑った。

「おや、随分若い可愛らしい奥さんだね」

「ありがとうございます、よく言われます」

……嘘つき。初対面で期待外れだとか抜かしたのはどこのどいつだ。顔が見えないように鍔を引き下げる王子殿下を横目で睨みつけた。どうせ本心ではこの地味顔が、とか思ってるんでしょ。

自分でも意味がわからないくらい不機嫌になりながら陳列されたアクセサリーに視線を落とす。金属のみのものもあるが、色とりどりの石が嵌ったものが多い。色順に並べられているようで見る目も楽しいグラデーションになっている。

別に本当に欲しかったわけではなかったのに、一つのアクセサリーを見た途端目が離せなくなった。銀鎖に丸くカットされた小ぶりな半透明の赤い石がついただけの、シンプルなデザインのネックレス。

見た瞬間、彼の瞳と同じ色だと思ったのだ。手に取ってみる。うん……やっぱりそっくりだ。

「それがいいのか?」

手元を覗き込まれてびくりとする。首を縦にも横にも振る前に、グイード殿下はお金を払ってしまった。

「毎度ー。末永くお幸せにねえ」

気のいい女店主に手を振られながらグイード殿下は歩いていってしまう。

「えっ、え、ありがとう……ございます」

あの肖像画の部屋の扉を見てしまった後なら違いがわかる。この石は色硝子か何かで本物じゃなさそうだし、多分安物なのだろう。

でもそれを貶さない。こういう時には、どうしてこんな物が良いんだ、と馬鹿にしない。そんな所がこの人の微妙に憎み切れないところだ。

王子殿下はふんと鼻を鳴らして、私の手元を見つめた。

「どうしてそれが良かったんだ?他の物は手に取りもしなかっただろう」

ただ純粋な疑問。だから私もつい、ぽろりと口にしてしまった。