「ほう、しかしお前が扉を開けた音で目が覚めたんだが?安眠妨害の報いは受けてもらわないとな」

「私は言われた通り起こしただけなんですけど……」

「そんなこと俺の知ったところじゃないな」

あーもう、やっぱり起こしに来るんじゃなかった。くるりと踵を返す。

「じゃ、私は起こしましたから、ねッ……!?」

ぐん、と強く腕が引かれた。そのままベッドに引き倒される。

「ちょ……!何してるんですか!」

「ん?」

にっこりと微笑む顔が間近にある。起きてすぐの顔でこれほどの王子様スマイルができるとは、恐るべし本職の王子。

赤い瞳が柔らかく細められると心臓がうるさく騒ぎ始める。非常によろしくない。これは駄目だ。

「これは駄目だな……」

一瞬思考を読まれたのかと思ってビクリとしたけれど違ったようだ。目の前の王子が熱っぽい妖しい目つきをしている。

布団の中でもぞもぞとしたかと思うと、腰を掴まれてぐいと引き寄せられた。距離はほとんどゼロ。寝起き特有の体温の高さに包まれて頭がぼうっとする。

「……我慢できそうにない」

吐息を多量に含んだ声に視界が白んだ。顔が近づいてくる。もう少し身動ぎすれば、触れてしまいそうな────

「~っ、馬鹿言ってないで起きてください!この色呆け王子!」

グイード殿下を押し退けてベッドから転がり落ちるようにして脱出する。赤くなった顔を誤魔化すように乱れた裾を整える。

「えー、お前も乗り気じゃなかったか?」

「そんなわけないでしょ!ほら早く!」

「着替えさせてくれるのか?」

「……」

私はもう取り合わずに寝室を出た。広間にあるソファに腰掛けて支度が終わるのを待つ。起こせと言われた以上二度寝しないように見届けなければいけないだろう。

「……っ、私の馬鹿!」

危なかった。あと少し自制心を取り戻すのが遅かったら……

思い出してまた顔が熱くなる。駄目だ。グイード殿下を見るだけで暫く思い出しそうだ。