「お伽噺みたい……」

ほうっと息をついた私にグイード殿下が薄く微笑む。

「王は明るい母が好きだった。愛していた。俺もそうだ。いつもにこにこしていて、近くにいるだけで心が暖かくなるような、そんな人だった。
でも……本当は心労がひどかったんだろうな。俺が6歳になった頃に突然倒れて、亡くなるまではあっという間だった。
最愛の妻を喪った事に酷くショックを受けた王は、何にも関心を示さなくなった。そして、それを良いことに臣下達がある進言をした」

グイード殿下の声の調子が変わった。唸るようにぐっと低くなる声。昏く光る赤の瞳がここではないどこかを睨みつける。

「『正室のメリアルーラ殿下と、側室のエスメラルダ殿下の立場を元から逆だったことにすればよいのです。従って王子の王位継承権も順位を入れ替えるべきでございます。そうすれば歴史に傷も残らないでしょう』と。
……傷とは何だ?母が愛された証を消してしまうのか?そんなに、出自が、血が、髪の色が目の色が、大切なのか……?」

「元はエスメラルダ殿下が側室だったんですか……!?」

「まあ、そちらは周りが煩いから仕方無くという感じの完全な政略結婚だったがな。
王族や貴族は、大元を辿れば殆ど繋がっている。王族の婚姻相手は有力貴族。その子がまた貴族と子を成す。血は混ざらない。王族は金髪碧眼を誇りにしている節まであるんだ……くだらないだろう?」

私はもう一度壁に掛けられた肖像画に視線を巡らせた。そうか、だからエスメラルダ殿下もあの少女も、髪も瞳も同じ色だったのか。

少女が一瞬掠めさせた蔑みの色は、グイード殿下の母親の出自に向けられたものだったのだ。

「母が死んでからは特に顕著だったな。平民の血が混ざったこの瞳を皆が忌む目で見ているのがわかった。王になれない俺を嘲笑っているのがわかった。周りから人が消えたのがわかった」