今の会話の中に恥ずかしい部分なんてあっただろうか。要らん意地ですねとか言われたことだろうか。

王子はこちらの方すら見なくなり、待っていても埒が明かなそうだったので私は仕方なくそれ以上の追求を諦めた。食事を終えて立ち上がる。

「私、そういえば毎日お世話になってるのにお会いしたことないので料理長さんに挨拶を……あとは謝ってきます」

この殿下が頭おかしいお願いをしてすみませんでしたって。

まあ本当の目的は、今後何をどれだけ言われようと普通の食事を出してくださいって釘を刺しに行くためなんだけど。

それに全く気づいていなさそうな王子殿下は行儀良く口元を拭うと頷いた。

「そうか。では俺も行こう」

「え゛っ、別に私一人で大丈夫ですよ。厨房の場所ぐらいわかりますし」

「一人で出歩かせるわけにはいかないだろう。危険だ」

「えー……」

明らかに嫌ですアピールをしているのにめげそうな気配がない。王子はどうしたものかあの日からやけに過保護だ。もう過保護が過ぎて過過保護の域に達している。どこに行くにもついてこようとするのだ。

諦めるしかないかと思った時、腰を浮かせたグイード殿下の肩がぐっと押さえられた。にっこりと微笑むシャルキさんの顔がなぜか凄く怖い。

「王子、お言葉ですがお散歩をされる時間はありませんよ。こうしてゆっくり朝食をとる時間を割くのも大変なのですから。ご自身の机の上の書類の山を思い出してくださいね」

「ぐ……」

ナイスですシャルキさんありがとうございます、と別に私に協力するつもりではなかったであろう側近どのに心の中で手を合わせて、「待て!」だの「おい!」だのと追いかけてくる声を完璧に無視して私は足早に部屋を出た。