「先日の様子を見てもおかしいと思ったけれど……今回の娘は余程気に入っているのね」

『今回の』?何か引っかかる言い方だ。

「それって、初めにお会いした時に『また連れてきたのね』って仰っていたのと関係がありますか」

王妃は私を憐れむような目で見て、芝居が買った仕草で扇子を口元に寄せた。

「可哀想に、何も聞かされていないのね……
グイードはずっと花嫁を探しているのよ。連れてきた娘の数は二桁は優に超えていると思うわ」

「え、花嫁ってそんなに決まらないものなんですか?」

それだけの人数を連れてくれば、それこそ王子自身が言っていたように財産目当てで縁を結びたいと思う人も誰かいたのではないだろうか。

「グイードが連れてきた花嫁候補は、皆“不幸な死を遂げる”の。或いはそれを恐れてすぐ逃げていくのよ」

「……え……それはどういう……?」

「銀の食器を持ってきて頂戴」

エスメラルダ殿下は私に答えずに侍女に目をやった。彼女も深緑の服を着ている。

そうして受け取った銀の皿の上に、王妃様はにっこりとしながら私の皿からケーキを移した。

「何を……」

私は息を呑んだ。ケーキが触れた部分が少しずつ黒く滲み始めている。

「最近は花嫁どころか誰も寄ってこないようね。近くに居ると殺される、なんて噂が立って……『禍の王子』と呼ぶ人もいるらしいわ。怖いわねぇ」

王妃は色の変わった皿を見つめている。酷く愉快そうに口の端を釣り上げて。

「貴女も早く花嫁など辞めた方が良いのではないかしら?どうせ裕福な生活に釣られたのでしょう?欲は時に災いを招くものよ。
もし良ければ私が王都で生活できるように手続きをしてあげてもいいわ。私は貴女の事を心配して言っているのよ?」

違う、全部建前だ。冷たい色をした目を見ればわかる。これは、何が言いたいのかは阿呆でもわかったでしょう?と言っている目だ。

そういえば聞いたことがある。銀は砒素などの毒に反応するので中世では毒味に使われていたと。銀は金に比べてとても反応しやすい金属だと化学の授業でもやった。

私の目の前でこれを見せたのは、私を怯えさせるための牽制だ。

恐らく……いや間違いなく、今までグイード殿下の花嫁候補を殺していたのは────

私はがたんと椅子を鳴らして立ち上がった。行儀が悪いと言われてもしったこっちゃない。