「どうっしても我慢できないんでしたらマイカ様がご自分で仰ってください。貴女なら殿下に文句を言うのなんて屁でもないでしょう?」

「まあそうですけど……」

これが仮に本当に嫌がらせだとしたら、私が嫌がっているという事を知って嬉しげにずっとパイ責めをしてくるかもしれないではないか。

あーもう!馬鹿馬鹿しすぎる。私もシャルキさんと同じ立場だったら間違いなく笑うと思う。

口を割ってくれそうにない側近を諦めて、私はフォークを突き立てた。

私がもそもそとパイを口に運んでいると、ノックされる音が部屋に響いた。私が反応するよりずっと素早くシャルキさんが立ち上がって扉を開ける。

見たことの無い深緑色の服を着た侍女が何やら伝えている。普段目にする侍女は濃紺の服を来ているので、何か役割が違うのかもしれない。

やがて侍女が礼をして立ち去り、こちらに戻ってくるシャルキさんはさっきとは別人かと思うようなほど鋭い目をしていた。

「あの人、殿下がご公務でいらっしゃらない時間を狙ってきたな……」

思わずどうしたんですか、と尋ねると首を振りながら苦い口調で答える。

「マイカ様、お茶会に招かれています」

「お茶会?って私、今ご飯食べたばっかりで入らないかも」

「貴女って人は……」

シャルキさんが呆れたような声を上げて肩を落とした。「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないんですよ!」と私の方に近づいてくる。

「ちゃんと準備をしなければいけません、何せお誘いされたのは……エスメラルダ殿下ですから」

「え、エスメラルダ殿下?なんで王妃様が私なんかを?」

慌てる私と対照的に、シャルキさんは一度ため息をついただけだった。

「まあ察しはつきますが、行かない訳にはいきませんので。一つだけ気をつけてください」

「何?」

「絶対に、何も口にしないでください」

「……お茶会なのに?」

「絶対です。お願いします」

「わ、わかりました」

詰め寄られて何度も頷く。何故こんなにピリピリしているのだろう。エスメラルダ殿下は王妃様なんだよね?

嫌な予感しかしないので正直仮病でも使ってすっぽかしたかったけれど、シャルキさんの言う通り王妃様の呼び出しを無視するのは無理だろう。しょうがない、行ってみるしかないか。私は腹を括って立ち上がった。