そして持っていたバスケットから何かを取り出す。表面が砂糖コーティングされててらてらと光っている。甘い香りが鼻をつく。形が少々違うので最初はわからなかったが、たぶんこれはパイだ。

「こんな物しか持ってこれなかったんだが」

きゅるるる。思い出したようにお腹がまた鳴った。羞恥にわたわたと忙しなく手を動かしながら差し出されたそれをもぎ取るように受け取る。

かぶりつくとじゅわっと甘い味が口の中に広がって痺れそうなくらいだ。冷めてはいたが、それを補って余りあるほどに美味しかった。

「美味しいです、ありがとうございます」

お礼を言ったのにグイード殿下な不満そうな顔をしてこちら見ている。疑問に思いながら見つめ返していると彼はこちらに手を伸ばしてきて、その指が頬を掠めた。

「な、なんですかっ!」

「口の端に屑を付けて、行儀が悪いな」

長い指先に摘まれているのはパイの欠片で、ひょいと放り込まれて殿下の口の中に消えていく。それを見てかあっと顔が熱くなる。何をやっても様になるから腹が立つ。ドキドキしてしまう。

「……あの、殿下のそれこそ行儀悪くないんですか」

「俺は王子だからいい」

ええー、それってあまりにも横暴じゃありません?矛盾しまくりなんですけど……

まあいいや。もう話すことは無いと言わんばかりに、むくれながらひたすらパイを口に運ぶ。グイード殿下はそんな私を未だむっつりとした表情で見つめている。

「これがそんなに嬉しいのか?やっぱりお前は変な女だな……」

それが気に食わなかったのか。なんですか、庶民っぽいとでも言いたいんですか。まあその通りですけどね。

唇を尖らせたけれど、声色に馬鹿にしているような雰囲気は感じられなくて、おやと心の中でこっそり首を傾げた。なんだかこの人はよくわからない。

ほんと、私からしたらあなたの方が変な人ですよ。

でもそれを言うのは同じ事を思っているみたいで面白くなくて、ちょっとだけ抱いた興味と戸惑いをパイと一緒に噛み砕いた。