それに世継ぎ?つまり、その……子どもを産めということ?なんだか突然話が生々しくなった気がするんだけど。

「お前を探しにわざわざあんな村まで行ったんだ。お前にいなくなられたら困る」

「…………あぁ……」

なるほど、そりゃそうか。ぼんやりと返事をした。

しおらしく謝ってきたのはただ道具として私が必要だったから。ほんの少しだけこの状況に浮かれてしまっていた自分に冷水をぶっかけられたような気分だった。さあっと急激に頭が冷える。

恋愛感情が無いからこそのストレートな物言いなのだろう。普通の状況なら胸がときめくような台詞なんだけど。……まったく、この人は色気も何もあったもんじゃないな。

微妙な顔をしている私に気がついてグイード殿下は考え込むように腕を組んだ。

「では取り敢えずお試し期間というのはどうだ。お前の生活は保証しよう。その代わりに俺の妻を演じる……まあ、仮面夫婦だな。どうだ?お前だって住む場所がなければ困るだろう」

「仮面夫婦ぅ?」

住んでた所から攫ったのはあなた達でしょうが!と言いそうになったけれど、今更そんなことを言っても無駄だと気づいて、しぶしぶ大人しく頷いた。

「本当か!」

それを見て安堵したように顔一杯で笑う顔は、平素より幾分幼く見える。この笑顔だけは嫌いじゃない。

結局何度も許してしまって、自分が思う以上にこのどことなくアンバランスな王子様の事に絆され始めているのかもしれない、と思う。勿論好きとかそういうのではなく、危なっかしいとかそういう類の感情だ。

「まあ俺としては、最悪世継ぎさえ産んでくれればいいんだがな」

……前言撤回。

「最っっ低……」

「そう言うだろうと思った。お子様にはハードルの高い話だろうし仕方ないな」

小馬鹿にしたような口調で言われたので睨みつけると、王子は薄く笑って肩を竦めた。