目の前で信号が赤になった。やっぱりとことんツイていない。私は鞄の紐を肩に掛け直してため息をついた。

じっと待っているとそのうち青に変わる。ぼうっとしていたので、隣に立っていた女の子が走り出したことでそれにやっと気がついた。

自分も渡ろうとしたところで、はっと息を呑んだ。横断歩道に向かってトラックが走ってくる。しかも止まりそうな様子は全くない。

「ちょっ……!!」

何か言おうとしたが、何を言えばいいのかもわからなかった。女の子の名前もわからないので呼び掛けても気づいてもらえるかわからなかったし、呼び止めた方が轢かれてしまう可能性もある。

「────」

何故か、躊躇いは恐ろしい程に無かった。考える前に飛び出していた。

短い足で駆ける女の子に簡単に追いついて脇腹を掬いあげる。女の子は酷く驚いた顔をしたが、トラックに気がついて固まった。

「……ッ!!」

考える前に女の子を歩道側に可能な限り放り投げた。痛かったかもしれないけれど、もう大丈夫だ。

気づけばトラックは目の前まで迫っていた。今更のようにブレーキを踏んでいるのか、地面をタイヤが擦る耳障りな音が頭を容赦無く掻き混ぜる。

ブレーキランプがこれから訪れる結末を報せるように私の姿を紅に染め上げた。意味も無く鳴らされるクラクションの音、道行く人の悲鳴。

全てがスローモーションに感じた。ああ、本当に人間の感覚って引き伸ばされるんだなあ、なんてことを考えながら────

ただ、どうしたってもう間に合わない。私は目を閉じた。