仕方ないなぁもう……怒らないであげよう。話してくれないけれど、流石に理由もなくあんな事をするはずはないから。それくらいわかる。女子高生の空気を読む力を舐めないで欲しい。

私は彼が自分の腕を切り落とそうとした姿を思い出して、はあっとため息をついた。だから……たぶんこれにも意味があるんだろうな。

「何ていうか、殿下って生きにくそうですよね」

「……は?」

私に文句を言われるものだと思っていたのだろう、グイード殿下は素っ頓狂な声を上げる。

「まあいいです、さっきのは気にしないことにしますから。取り敢えずどうして私を連れてきたのか説明してください。あと花嫁って何の話ですか?」

「あ、ああ……」

グイード殿下はカップに口をつけた。しかしどうやらもう無くなっていたらしい。目を泳がせてソーサーの上に戻した。

「お前は本当に何も知らないのか?まさか田舎過ぎて、か?」

またカチンと来たがぐっと堪える。これは大人しく記憶喪失の設定でいった方が良さそうだ。

「私は村の人に3ヶ月ほど前に森で倒れていた所を助けられたのですが、それより前の記憶が無いんです」

それを聞いた王子と側近は顔を見合わせた。

「あー、面倒な娘を拾いましたね殿下」

「……いや、寧ろ好都合だ。その方が話は単純だからな」

グイード殿下が席を立った。こちらに身を乗り出してくるので同じだけ仰け反って距離を取る。それでも近づいてくるので顔と顔が拳一個分ほどの近さになる。

「おい、お前……何で避けるんだ」

「そりゃ避けますよ!」

あまりにも整った綺麗な顔が近くにあれば嫌でもドキドキしてしまう。不機嫌そうに鼻に皺を寄せて目を眇めても、それすら様になるのだから憎たらしいことこの上ない。