「あらグイード。珍しいわね、貴方が馬車を出すなんて」

グイード殿下は何も言わずに礼を返した。貴婦人は扇子で口元を隠しながらこちらを無遠慮にジロジロと見てくる。やがて私に目を止めると、はぁっとわざと聞こえさせるように大きくため息をついた。

「ああ……また懲りずに花嫁候補を連れてきたのね?」

何を言っているのかいまいちわからないが、動作や喋り方に思わずイラッと来てシャルキさんに「誰ですか?この人」と小声で尋ねた。

「王妃のエスメラルダ殿下ですよ」

「王妃……」

ということはグイード殿下の母親なのだろうか。でもそれにしてはあまりにも雰囲気が険悪というか……

考えていると突然グイード殿下が私の肩を抱いたのでびくりと体を揺らしてしまう。

「エスメラルダ殿下。彼女も長旅で疲れているので、部屋に下がらせて頂いてもよろしいですか」

「まあそうだったの?気がつかなくてごめんなさいね。また会いましょうね」

最後の言葉は私に向けられているようだった。どうやって対応したらいいものかわからないので曖昧に笑っておく。

彼女が立ち去った後もグイード殿下は私の肩を掴んだままだった。王妃の背を見つめる赤い目が細まり、肩に回された手にぎゅっと力が入る。

「……殿下、痛いです」

私が声をかけると、息を吐いた気配がしてぱっと手が離れた。そして何事も無かったように歩き出す。何も言わないがついて来いということらしい。

「もう……なんなの……?」

何もかも意味わかんないし、王子ならエスコートとかしたらどうなの、と心の中で文句を言いながら私はその大きな背中を早足で追いかけた。