「女どもは俺が声をかければ向こうから飛びついてくるのに……まさかそうやって俺の気を引こうとしてるのか?」

やっと得心が行ったとでも言わんばかりの表情でそう尋ねられ、一瞬ぽかんとしてしまう。

「……はぁ!?そんなわけないでしょ!」

王子様って皆こんな感じなの?もー我慢ならん!

勢い良く立ち上がって仕立ての良いブラウスの襟をがっと掴む。

「あのねえ、好き勝手言ってますけど、王子様だからって何でもかんでもあなた中心に回ってるわけじゃないんですけど!それにあなたの花嫁候補ですって?私の聞き間違いだったらいいんですけど、もし本当にそうなら今すぐ私を放り出してください!勝手に攫われて、嫌ですよあなたの花嫁なんか!」

生憎私は他所の世界から来たみたいなんで、王子様であるあなたがどれほど偉いのかなんてわからないんです。もう不敬罪でも何でもいいです。

グイード殿下はさっきビンタされた時と同じような間抜け顔で私を赤い瞳に映している。

そのうちふるふると小さく肩を揺らし始めた。怒ったのかと思い身を固くすると、彼の口からくっ、と笑い声が零れた。
綺麗な顔がくしゃっと笑みの形に歪む。口の端だけを釣り上げて笑ったりしそうだな、なんて思っていたから、想像していたよりずっと感じの良い笑顔だった。

「なんだ、お前は怒った顔もいいな」

「は、ぁ……?どうも?」

純粋に褒められているのか、いやそれとも皮肉なのか。この王子様では良く判断がつかずに曖昧に返答する。「この無礼者を今すぐ消せ!」とでも言われるかと思ったので拍子抜けだ。

「あらら、お気に召されたみたいですねえ。残念、帰るのは諦めて下さい」

そう言ってシャルキさんがひょいと肩を竦める。

「え……」

えっまさか、嘘でしょ?嘘って言ってお願い!

私はブラウスから手を離して立ち尽くし、グイード殿下は心做しか機嫌が良さそうに窓の外を眺め、シャルキさんは外れた鼻歌を歌う。そんな3人を乗せて馬車はただ王都への道をひたすらにゆく。

よろよろと覚束無い足取りで座席に座る。

「……いやいや、こんな人に……?」

いつもより早く脈打つ胸を押さえてこっそり呟いた。グイード殿下の笑顔にどきりとしたのはきっと顔が良いから、ただそれだけだと、私は必死に自分に言い聞かせていた。