chapter1 飛び出して


道路に転がった石ころを蹴飛ばそうとして空振りする。地面を擦ったローファーがざりっと嫌な音を立てた。

見上げれば、水彩絵の具を零したような鮮やかで優しい色をした夕焼けが一面に広がっている。

でも私の心は、そんな空を見ると更にくすんでしまいそうだった。

遡ること数十分。

呼び出されて職員室に入った私に、担任が突き返してきた1枚のプリント。『進路希望調査書』と1番上に書かれ、ご丁寧に〔最終〕とまで付いている。私はその文字を見ないようにしながらしぶしぶそれを指先で受け取った。

「おい楠、真っ白で出すとはどういうことだ?」

「……名前は書きましたよ?ほら、3年6組楠舞花、って」

顔を背けながら宣う私に担任はこれ見よがしにため息をつく。

「あとお前だけなんだよ。今までは見逃してこれたが、これは出してもらわないと困る。進路なんて悩むのはわかるし、相談してくれと言ってるじゃないか」

「やー、それはわかってるんですけど~」

そうは言われても、相談するものもないのだ。進学か就職かさえも決められていないのに。

ここで待っていても仕方ないとわかったのだろう、担任は来週までに絶対出すようにと告げて私を追い出した。

高校3年生、受験生にとって避けられない関門。わかっているけど……どうしても決められていない。やりたいことがないのだ。純粋に、全く先が見えない。

憂鬱だった。進路を決めて努力する周りの友達が、きらきらとして見えるのも。

例えば、仮に、もし────自分が今死んだとしても、やり残したことはきっと見つからないような気がした。