事務員の杉本さん。確か、40代半ば。大和さんのご両親の今住んでいる厚木の自宅の隣家の娘さんでここに入って3ヶ月になる。
バツイチになって中学生の息子さんを連れて実家に戻り求職中だと聞いた社長のお母さんが息子の会社はどうかと誘ったことがきっかけでここで働くようになった。
彼女の面接と採用は支社長の下北さんがしたから、ここにほとんど顔を出さない社長とは面識がなかったのだった。

入社のきっかけは私とあまり変わらない。同じ縁故採用。
でも、私と彼女との大きな差は私にはキャリアがなく、彼女には長年のキャリアがあったということ。
私と違って即戦力だったのだ。

「後で紹介しますね。今はご機嫌斜めだから近付かない方がいいです。タイミングみて声かけますから、ほっといて大丈夫です。なんなら今日は挨拶なんかしなくてもいいくらい」

苦笑している杉本さんにペロッと舌を出した。

「とにかく今から社長が大きな声を出しても気にしないでいいですから」
そう言ってコーヒーを二つトレイに乗せて社長のいるオフィスに戻った。