「灯里に会いたかったから…っていうのは理由にならない?」

「なるはずないでしょ。何度も言わせないで。私たちは別れた。それも一方的にあなたが私を捨てたんじゃない。捨てた女を笑いに来たの?バカにしないで」
のらりくらりと私の質問をかわす櫂にイライラが募り、声が大きくなる。

「灯里、そんなに怒らないで。運転中なんだし」

「本当に頭がおかしくなりそうよ」
赤信号で車を止めると、前を向いたまま大きく息をついた。

櫂は何も言わない。
じっと私を見つめているようで左頬に強い視線を感じる。
だんだん怒っている自分がばからしくなってきた。

別れた男相手に何してるんだろう。自分だって適当にあしらえばいいのに。
そうだ、本気で相手をする必要はない。

「こんな田舎まで会いに来てもらうほどイイ女じゃないわよ。あなたの周りには掃いて捨てるほどきれいな女性がいるでしょ。私の相手をするのは時間の無駄だと思うの。謝罪なら今聞いた。もうこれっきりにしてね」

「灯里の相手をすることは時間の無駄じゃないよ。それにバカにするつもりもない。灯里は大人になってさらにもっとずっと綺麗になってるしね」