「乗って」
車のロックを解除して助手席を目で示した。

「ありがとう」と櫂が助手席のドアを開け乗り込んだ。

あの料亭ならナビをセットする必要もない。そのまま静かに発進させた。

「いい車に乗ってるんだな」
櫂が車内を見回して言う。

「私の持ち物じゃない。社用車よ」
「へえ、社用車がこれ?フォレストハウジングは相当社員待遇がいいんだな」
感心したように櫂が呟いたけれど、私はそれを無視した。

「ねぇ、私たち会うのはこれっきりよね」
「話が付けばね」
「何の話よ」
イラついた声を出したけれど、櫂からの返事はなくて、運転中の私には櫂の表情もわからない。

「今、フォレストハウジングの社長秘書なんだってな。本社は長野だろ?森社長もこっちにいるの?」
「ーー社長は長野」

「秘書の灯里だけこっちにいるのか?それはなぜ?」
「櫂には話す必要ないでしょ。会社の人事について他社の人間には関係ない。それより、どうして私を探していたのかを教えて」
更に尖った声を出してしまう。