「それで、話って何?」

「話?」

「話があるから呼び出したんでしょ」

「そんなこと言ったかな。灯里に会いたいとは言ったけど」
櫂はくすっと笑った。

「ふざけないで」
膝の上に置いた拳を強く握りしめた。

「ごめん。怒らないで。俺が何か言うときゃんきゃん吠えて噛みついてくる灯里が懐かしくてさ。からかいすぎたよ。悪かった」

きゃんきゃん吠えて
きゃんきゃん吠えて
きゃんきゃん吠えて・・・

ーーー脳裏によみがえるあの彼女の高笑い。
『櫂が”きゃんきゃん吠えるばかな仔犬を一匹飼ってる”って言ってたのはあなたのことだったのね』

4年前のあの西倉恭香の顔が浮かんでくる。二度と思い出したくなかったのに。