「ぬれせんべいってこんなにうまかったか?」
「私もひさびさだったから味忘れてましたけど、こんなに美味しいのは初めて食べたような気が」
「取り寄せしてみんなで食うか」
「賛成です。エリちゃんとこのチビにも食べさせてあげたい」
「おお、いいな」

社長は二枚目を食べながら片手でスマホを操作しはじめた。
とにかく何をするのも早い人だ。

「で、厚木の話なんだが」
スマホを胸ポケットにしまうと真面目な顔をして私の目を見てきた。

「ーーー社長の中では決定なんでしょ?」

「だな」

「じゃあ、行くしかないじゃない。行きたくないってここでひっくり返ってお腹出して騒げば行かなくていい?」
上目遣いで社長をにらんだ。

「いや、ダメだろ。ま、灯里がひっくり返ってお腹出すのを見てみたいけど」
社長の表情が緩んで口角が上がる。

「ずっとってことじゃない。転勤って言ったけど、正確には長期出張だ。定期的に報告がてらこっちに戻って来てもらうし・・・そうだな、とりあえず半年」

「で、厚木で私は何を?」

「あっちの人手が足りないと支社長の下北が言ってきた。耐震住宅だけじゃなくて既存のも思ったよりも好評らしくて手が回らないらしい。主に下北のサポートだな。住宅展示場の案内係も増やさないといけないらしいんだが、その教育をしている暇もないと言ってる」

社長はうーんと腕組みをした。