「それは違うんじゃないの」

執着

西倉恭香が感じているのは昔の彼への愛じゃなくて執着なのではないだろうか。
四年前も今も。

この人に今の私と櫂の関係を正しく伝える気などさらさらない。
私と大和社長との関係も櫂にやり直したいと言われて断ったことも何もかもこの人には教えるつもりはない。

「櫂があなたを選ぶかどうかは別の話でしょ。そもそもあなたは櫂のこと愛しているの?」

私にはそう見えない、そう言うと西倉恭香は冷ややかな視線を私に向け、「愛してるかどうかなんてそんなこと、もうどうでもいいのよ」と口元だけの笑顔を向けてきた。

「あなたに櫂は渡さないから」
キッと私をひと睨みすると、私に背を向け四年前と同じように自信に満ち溢れた足どりでホームと反対の改札に向かって歩き出した。

その狂気じみた背中をただ見送る。ここで声をかけても振り向くことはないだろうし、彼女が私の忠告に耳を貸すこともないだろう。

あの人の頭には私への嫉妬と櫂への執着しかない。
櫂への愛はなくあるのは執着。
これでは誰も幸せになれるはずがないのだ。


大きくため息をついてから私はスマホを取り出して櫂に電話をかけた。