「ねえ、あなたはどうしてそんなに櫂を苦しめるの。そんなの愛じゃない。ストーカー行為は犯罪なのよ」
自分が4年前にされたこと、櫂が今もされていることを思えばこの人のことをひっぱたいてやりたいくらい憎い。拳をぎゅっとにぎりしめる。

しかし、私の言葉に言い返すどころか、西倉恭香はぽろぽろを涙を流し始めた。

え?
何、泣き出した?どうして。私の知っている西倉恭香はこんな所で泣くような女性ではない。

戸惑っていると私の腕にとんっと横を通過していく人の荷物が当たった。
もうすぐ22時になる。帰路を急ぐサラリーマンや酔客でホームに向かう通路は人が多い。そこで立ち止まっている私たちは明らかに人々の迷惑になっていた。

「ちょっと移動しましょう」
上品な花柄のハンカチで涙を拭いている西倉恭香をホームに向かう通路の壁側に移動するように促した。

こくりと頷いて歩き出す西倉恭香の姿を見て、まだ信じられない思いだ。
別人?それとも姉妹とか?

肩で風をきって歩いていたとまでは言わないけど、日本有数のお嬢様らしく自信に満ち溢れた歩き方で4年前私の職場に私を公開処刑をしに来たあの西倉恭香らしくない、そう思った。

年齢こそ彼女の方が上だけど、今日の西倉恭香は地味で清楚な印象すら受けるファッションにナチュラルメイク。
かたや、私はハイヒールにタイトスカートのスーツで、昼間は商工会の集まりに出席していたから秘書風きっちりヘアにフルメイク。

端から見たら、私が彼女を叱りつけて泣かせているように見えるんじゃないだろうか。

彼女の姿を見た時の恐怖感よりも憂鬱で不愉快な気持ちがじわっと私の心に広がっていく。