私も今夜はリラックスできていた。
それは櫂がしつこく元サヤを求めて来なかったし、櫂が昔より柔らかい表情をしていて、私を対等に扱ってくれているから。

以前は年齢差もあったし、出会った頃は女子大学生とゼネコン勤務のエリートという関係だったから自然と主従ではないけれど、対等な彼と彼女というわけでもなかった。

「櫂、これからもよろしくね」
隣でまだ笑っている櫂を見上げて私も笑顔で告げる。「フォレストハウジングを」

一瞬ポカンとした後で、「ひどい女だな」とニヤリとした。


「送る」と言ってくれたけれど、まだそんなに遅い時間じゃない。
それに反対方向の私を送っていたら終電時間に間に合わず櫂が帰れなくなってしまうのも困る。
明日はまだ平日だし。
というわけで櫂には駅まで送ってもらい、改札で別れた。

これで私の過去の清算は済んだんじゃなかろうか。
これで大和さんの宿題を終えることができる?

足取り軽く改札を通り抜けた先にーーーもう一つの過去の黒い遺産が待っていた。

ーーー西倉恭香、本人が立っていたのだ。一人で。