「そう。あの時さ、酔った森社長と灯里のやり取りがあまりにも息ぴったりでーーすぐにピンときたよ。初めは森社長と灯里が付き合ってるなんて噂は半信半疑だった。でも、あんな雰囲気見せられたら納得するしかなかったもんな」

「あんな雰囲気って?」
どういう意味か疑問に感じてそのまま聞いてしまった。

「酔った森社長を慣れた様子で世話をする灯里と、それを嬉しそうにしてる森社長。手慣れた仕草で灯里が緩んだネクタイをシュッと外して・・・って思い切りプライベートを想像するだろ。これ以上言わせるなよ。お前、けっこうひどい女だな」
くくくっと櫂が笑い出した。

「ご、ごめんなさい」
慌てて目線をそらして頭を下げる。
櫂の言う通り、たった今彼のこと振っておいて何てひどい女だろう。

「いいよ。これからも仕事で顔を合わせるんだから、普通に接してくれよ。避けられた方が傷つくから」

そうは言ってもーー

「灯里、俺は4年前お前を振った。で、今は灯里にフラれた。これで手打ちにできない?何と言ってもこれからも取引先としてお互い顔を合わせる相手なんだから。気まずい関係で周りに気をつかわせたり迷惑もかけたくないしな」

手打ちですか。
その言い方はともかくとして、仕事で他のスタッフに迷惑をかけたくないのは同感だ。

4年前のいきさつを考えるといろいろ複雑な心境にもなるけれど、私も前を向いて歩いていく気になったんだしそれもいいことなのかもしれない。

「よろしくお願いします」
私がまた軽く頭を下げると、櫂は満足そうに頷いてコーヒーを口に運んだ。