でも、そこで櫂の夢を見た記憶も泣いた記憶もない。
その話、私じゃなくて社長が他の女性と間違えている可能性はーーー?

「オイ、灯里の話だぞ」
「今、私の考えてる事読みましたね。やっぱりエスパーだ」

「違うって。大体わかるだろ、そのくらい」

「一昨日の夜みたいにうなされたり、ぽろぽろ泣いてたわけじゃないけどな。目元にきらっと涙が光ることが何度かあったな。その度に頭を撫でると寝ながら微笑むんだ。
何年たってもあいつのせいで泣いてるお前を見るのはきつかったけどな。もう全部ひっくるめてお前のこと引き受けるから」

ん?
ふと、ひらめいた。

「ええっと。社長、それたぶん誤解です。確かに一昨日は昔の櫂とのことで泣きましたけど。そのうたた寝に関しては違いますね。断言できます」

私の自信たっぷりの言い方に社長は絶句したようだった。

「ーーー俺の勘違い?」
「ハイ、間違いなく」

スマホの向こうで大きなため息と「なんだよ」と呟きが聞こえた。

くすっと笑って「その話もします。だから早く帰って来てください」
大きく息を吸った。

「私のこと、引き受けてくれるんですよね?大和さん」
心を込めてゆっくりと声を出した。

「お前には敵わねえな」
くくっと笑って
「さっさと終わらせてくる。待ってろ」
そう言った。

大和社長のいつもの太陽のような笑顔がまぶたの裏に浮かんでじんわりと心に明かりが灯ったように感じた。