冷たいキスなら許さない

「どいて」
ハンカチを握りしめた手で社長を押しのけようとするけれど、そこは男性の身体。しかも社長は私が見上げるほどの長身で筋肉質なガタイは私が力を入れて押したくらいでは少しも動かない。

「どいてて言ってるじゃない」
キッと睨んでやる。私を拒絶したのは社長だ。
「お前、そんな顔してどこに行こうとしてるんだよ」
今度は両腕を開いて通せんぼの格好をする。

「どこに行こうが私の勝手でしょ、早めに昼休みもらいますっ」
冷静に考えれば、自分の勤務する会社の経営者に向かって余りの暴言。しかも勤務時間中だし。
でも、そんなことにすら気が付けないほど、私の心と頭は普通ではいられなかった。

通せんぼする腕をすり抜けてドアに向かおうとすると、
「もう、うるさい」
そんなつぶやきに似た小声が耳に入ってきたと同時に目の前が真っ暗になった。


社長の右手で両目をふさがれ視界を奪われると、瞳を押されて上向きになった私の後頭部に社長のもう一方の手で支えられた感触がして。
暗闇の中、唇が塞がれたーーー

驚きに身体が固まる。
先日の夜の触れるだけのキスとは全く違う。