「・・・懐かしいな。その笑顔」

櫂の言葉に胸の奥がつかまれたように切なくなる。
私もだよと言いそうになるのをぐっとこらえた。櫂がどんな状況にいたのかを知ったせいで今までのような完全拒否の態度をとれなくなってしまっている自分がいる。

「そろそろ出ましょ。櫂はこの後まだ行かなきゃいけないところがあるんだもんね?」
視線をそらして横に置いた自分の荷物に身体を向ける。

「灯里、俺たちやり直せないか?」

横顔に向けてかけられた言葉にびくっとする。

「灯里が森社長と付き合ってるのはわかってる。でも、俺たちここで再会したのは運命じゃないのか。俺はずっと後悔していた。あの頃は自分に余裕のないダメな大人だった。
でも、今は気持ちにゆとりができた。絶対に灯里にあの頃のような思いはさせないと誓える」

「・・・櫂」

「返事は今すぐでなくていい。恭香のこともあるし。灯里が安心して暮らせるようにしないといけないからね。真剣に考えてみて欲しい。よく考えて恭香のことが片付いたら返事をして」

さっとレシートをつかんで席を立つと「アパートの部屋に入るまで送らせて欲しい。灯里の車の後ろをついて俺のも走らせるだけ。安全のためだから拒否はしないで」と言ってレジに向かって歩き出してしまった。


大きくため息をついて私も立ち上がった。