「あれから数年何もなかったのに。今になって、しかもこのタイミングでどうして現れたのかってことも気になるしな」

確かにそう。
何年も接触がなかったのに、私たちが再会したタイミングで現れるなんて不気味でとても嫌な感じがする。

「まさか、ずっと櫂の事ストーキングしてたってこと?」

「いや、それはないと思うけど。ま、真実がわからないうちは嫌な想像はしないでおくよ。結果がわかったら連絡するから」

「そっか。うん、そうだね。連絡待ってるよ」
櫂の言っていることもよくわかる。

冷めてしまったコーヒーに口をつけた。
からからに乾いてしまった口の中にコーヒーの苦みがはりついていき顔をしかめると、目の前の櫂が小さく笑った。

「なあに?」

「灯里、ブラックが飲めるようになったんだなとちょっと寂しく思ってたら、苦くて嫌そうな顔をしたから安心してさ」

思わずくすっと笑ってしまう。
「そうなの。この仕事をするようになって客先でコーヒーを出されることが多くなってブラックが飲めるようにはなったんだけど。やっぱりあんまり美味しいって思えないんだよね。今もなんとなく流れでコーヒーを頼んじゃったけど、失敗だったみたい」