「また櫂はあの人に狙われるの?櫂が何かされるの?」
喉の奥から声を絞り出して尋ねると櫂はふっと優しい表情で笑う。

「俺が何かされることを心配してくれるんだな。自分が何かされるんじゃないかじゃなくて」

もう一度手が伸びてきてそっと頭を撫でられる。
「何かされたのは自分のくせに」

櫂は目を細めてまるで昔の愛し合っていた頃のような表情をした。
そんな顔しないで。痛みに似た感情が湧き上がってくる。

「私、あの人に今回は何もされてないよ。それに今櫂から話を聞いてあの人が櫂の恋人じゃないってわかった」

自分の頭に置かれた櫂の手に触れてテーブルの上で両手でぎゅっと握りしめ、その手に思いを込めてからそっと手を離した。

「この先どうするの?」

「今日の弁護士を通した申し入れにも誠実な態度を見せてもらえなかったし、なにより灯里に接触したことは許せない。今日、東山さんと副社長に事情を話したから今からまた弁護士と打ち合わせに行ってくるよ。この先灯里に何かあっては困るからね」

西倉恭香は昨日の夜から両親の厳重な監視下に置かれているから当分心配はいらないと思うと櫂は言った。