「だからさ、それがだ」

それが?

「どうしてたまたま通りがかったのがアイツで、俺じゃなかったんだろうな」

え?もしかして櫂のこと?

「そんなの偶然だし、たまたま櫂だったからっていうだけでそんなの別に意味はないですよね」

「意味ないか?」

ん?何かひっかかる?社長が何を言いたいのか計りかねる。
どういうこと?意味なんてないよね。

「まあいいか。それより腹減ったな」
社長が腕時計を光らせて現在時刻を確認する。

「今からだと家に着くのは40分後かー」呟くとすぐにスマホを取り出して電話をかけ始めた。

「あ、お袋?今から灯里を連れて帰るから、軽くメシ食わせて。ああ、ーーーそう、よろしく」
お母さんとこ?

「お袋が楽しみに待ってるから早く帰ってこいってさ」
不敵な笑みを浮かべる社長に呆れてため息が出る。

「私をアパートに送ってくれるんじゃないんですか?」
「そんなこと言ったか?」